学習サポーター制度による教育力の進化

基礎学力向上に関する研究会 各講演・発表資料 (平成23年度)

中川健治(長岡技術科学大学)

3年間の活動報告と今後の課題

GP以前の3年間とGPによる3年間の実施によって個別学習サポートは次第に充実したものになってきた。一方、サポートスペース方式(待受け方式)では、依然、学生の相談件数は十分でなく、今後も学生の学習意欲を高める方策が求められる。また、当初目指した全学による協力体制を築き、共通教育センターを実施母体とし、サポーター、クラス担任、科目担当教員、事務局が一体となって、学生の基礎学力向上に取り組むことができた。更に、この制度を軸にして、リアルタイムFD、学習プロセス作成支援システムなど、新しい教育方法を展開することができた。

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若林敦(長岡技術科学大学)

リアルタイムFDの成果と課題

リアルタイムFDとは、毎回の学習サポート終了時にサポーターが提出する学習支援報告書を、科目担当教員に同時転送し、有用な報告を授業内容や学習指導などの教育活動に役立ててもらおうとする取り組みである。アンケートに回答した教員の約8割(年度・学期平均)が学習指導に有用であると評価している。一方、学習サポートの性格上(対象学生の限定、サポート回数のばらつきなど)授業改善への利用には限界があることもわかった。今後、報告書の記述内容の向上、学生・サポーターと教員の双方向性の確保、学習指導に必要な情報の整理・開示をさらに進めていきたい。

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永森正仁(長岡技術科学大学)

個別の学習プロセス作成支援システムについて

自学自習用eポートフォリオ・システムとして、「個別の学習プロセス作成支援システム」が紹介され、以下のシステム開発コンセプトに関して説明があった。1)サポーターや学習者自身をエージェントとした、つまずき・課題に注目した事例の抽出。2)一人ひとりの学習者、および、各科目での学習における事例の、学習プロセスとしての視覚化、3)多様なニーズへの必要対応である個別化と、知識共有・検索への必要対応である形式化のトレードオフの問題を解決するデータベース構造。また、実際の支援実態に対する分析からシステムの有用性が示唆された。

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山下啓司(名古屋工業大学教授、キャリアサポートオフィスオフィス長、学習相談室室長)

学習相談を中心とした大学生による学生支援―先輩のいる学習室―

名工大では、「学生なんでも相談室」において学生支援を行い、成果をあげている(平成22年度の相談件数:1340件)。平成17年度より、学習支援に特化した「学習相談室」を追加したが、利用する学生数は非常に少なかった。そこで、修士・学部学生による「先輩のいる学習室」を創成した。相談内容は修学相談・学生相談に限り、「なんでも相談室」、「学習支援室」とも連携をとることにより、かなりの学生利用数(2008年度:約500件)を達成している。課題としては、ピアサポーターの確保と、相談件数の変動によるピアサポーターのモチベーションの維持がある。

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西野和典(九州工業大学大学院情報工学研究院教授)

大学初年次学習力育成の実践―九州工業大学での基礎学力向上の試み―

九工大では、初年次教育において、「自学学習の環境を整備する」という観点から様々な取り組みを行っている。講義においては、習熟度別学習の導入とともに、指名補習・授業内指導等を盛り込んだリメディアル講義(初年次前期:数学・物理)を実施している。また、常時、専任講師が待機し学生の質問に答える「学習コンシェルジェ」を設置し、かなりの効果をあげている(平成23年度の指導件数:745件)。また、eラーニング教材においても、内容にレベルを明記するなど、様々な工夫を凝らしているが、利用者はあまり多くないのが実状である。課題としては、持続可能な実施体制の構築等があげられる。

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三浦真琴(関西大学教育推進部教授)

アクティブ・ラーニング入門一歩前

関西大学では、教員・職員・学生による三者協働型アクティブラーニングにより、教育力の進化と教育方法の改善を目指している。その中核となるのが、授業におけるラーニング・アシスタント(LA)の存在である。LAとは、授業におけるラーニングモデルであり、通常はその授業を以前に修得した学部学生が行い、学習支援を担うファシリテーターとして、また既修者自らの成長の軌跡を伝えるメッセンジャーとして、学習支援を行う。このような取り組みを複数のスタディスキル科目において導入し、実践している。LAとしての成長のための研修会、広報活動、LA自身の研修企画等も行い、最終的には「How to Learn」へのパラダイムシフトを目指す。

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西浦昭雄(創価大学学士課程教育機構副機構長・教授)

2011年度の創価大学(SEED)における学習支援事業の概要

2010年度から開設された学士課程教育機構(SEED)の教育改革について概要を説明する。SEEDの下部機構である教育・学習活動支援センター(CETL)では、先輩(大学院生)による後輩(学部生)の学習支援を行なっている。また、学習セミナーでは、大学院生を含むスタッフが多様な内容で講座を開き、数学チュータリングでは、退職高校教師による予約制の指導、英語チュータリングでは、コンサルティングや英作文指導を行なっている。卒業等に問題を抱える成績不振者に対しては、オアシスプログラムにより個別支援をする。また、教員補助として参加する先輩(2・3年生)には、SA研修会を開いている。

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大竹奈津子(愛媛大学教育・学生支援機構教育企画室 助教)

愛媛大学における学習支援の取り組みについて~大学院生アドバイザーを 活用した学習支援~

愛媛大学では、教育・学生支援機構が、初年次教育およびスタディー・ヘルプ・デスク(SHD)などを統括している。初年次教育としては、大学生活において主体的かつ能動的に学ぶための技能を身につけるために、新人セミナーを開講している。また、プレースメントテストを実施し、必要に応じて数学のリメディアル教育を行なっている。更に、学生の学力低下や、学生の声の教員へのフィードバックのためにSHDを開設し、大学院生が主体的に運営する学生支援を行なっている。SHDでは、利用者に親しみを持ってもらうための空間作りや広報活動に力を入れた効果もあり、非常に高い利用率を得ている。

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パネルディスカッション

研究会の参加者に加えて、長岡技術科学大学においてサポートを行なっている大学院生も参加し、サポーター業務の実際や、普段の心構えについて語られた。他の参加者からは、サポーターには教師としての振る舞いより、むしろ学生と共に問題を共有し、共に考える姿勢が重要であるとの指摘がなされた。また、学生が内発的な動機で学ぶ姿勢を呼び起こす方策について、活発な議論がなされた。

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